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【書評】設計事務所選びが家づくりのキモであるということ。そして最後は人だということ。

(唐突に始めた書評の2回目ですが、「これから家を建てたい」という方で、特に建築設計事務所への設計依頼を考えている方の役に立つ本をチョイスして紹介していこうと思っています。)

『それでも建てたい家』(著者・宮脇 檀/初版・1991年発行)

著者の宮脇 檀(みやわき まゆみ ・ 1936-1998)は、今なお多くのファンを持つ住宅建築家。私もとても尊敬しています。現代の住宅設計に与えた影響、遺された功績は本当に素晴らしいです。

建築家に限らないのかもしれませんが、作品(設計した住宅)が素晴らしいからといって、説明も上手であるとは限りません(…正確には、下手な人、何を言っているのかわからない方が多い)。
ですが、著者の場合は作家(エッセイスト)としても数多くの素晴らしい作品を著しています。住宅設計の名手で、かつ文章もわかりやすいとなれば「これから家を建てたい、それも建築設計事務所で」という人の参考にならないはずがありません。特に本書『それでも建てたい家』は、一般向けに書かれたエッセイで、住宅の設計、見積もり、工事、実際に住むまでの流れに沿って、わかりやすく綴られています。読みやすいです。

『それでも建てたい家』というタイトルからは、極めて現代的なコンテキスト、たとえば
?? 「将来が不透明なこの経済情勢下に・・・(それでも建てたい)」とか、「資産の大半を住宅に集中させるのはリスク分散が基本の投資的な視点からみると、ポートフォリオ的に・・・(それでも建てたい)」とか、いろいろなマイナス要因に対して「それでも建てたい」価値がある!と書かれているに違いない ??
と想像する方も多いのではないでしょうか。

本書の発行は平成3(1991)年ですが、原稿は『小説新潮』に1988年4月から3年間連載されたもの(「あとがき」)。つまり、バブル景気のまっただ中に連載がはじまり、ほぼ終焉したタイミングで出版されたという背景を持ちます。
好景気とはいうものの、バブル期の地価高騰によって「一般的な」世帯では家を建てることがどんどん難しくなっていった情勢から、連載タイトルで書名ともなった「それでも建てたい家」が付けられたようです。その意味では、家を建てるにあたっての「障害」の大きさ度合いとしては、事情は異なるものの、現代も変わりません。

バブル期以降、住宅設計の世界が産業的に厳しくなっていたという背景があったとしても、実際に書かれていることには営業的で評論家然とした「それでも」は一切なくて、そのほとんどは「建て主と建築士(著者)との対話」です。個人との対話から浮かび上がる社会事情と家庭の事情からの「それでも」が多く描かれています。

この会話と著者の思考の開陳とが本書の中心的なコンテンツであり、魅力だと思います。おおむね実際の家作りの時間軸にそって、それぞれのフェーズの人間模様に触れることができるという構成です。

「屋根鉄板ですって? 嫌ですよ宮脇さん、鉄板たってしょせんブリキのことでしょ。あんな十年もしないうちに錆びたり腐ったりすることに決まっている材料で屋根を葺くの止めてくださいよ。銅板っていうのはだめですか? 高いっていったってあれならほとんど永久的っていうじゃありませんか、せめて屋根くらいちゃんとした材料つかいましょうよ」と、木造二階建の住宅の施主である高橋さんがひどくしつこかったのを今でも覚えている。…… 中略(引用者註:いろいろ説得を試みる話が続く) …… と説得するのだが、まずこれが最初にして最後の家であり、この家を子供に残して死んでいくのだと、家を建てる興奮に我が身を委ねてしまっている高橋さんは聞く耳を持たない。

「4 出来上がった家に住む 」文庫版p234より

こうした実例を示したうえで、実際に家を建てる前の冷静な状態で読めば、きっと参考になるだろうなあという見方、アイディア、説教、嘆息が後に続くわけです。

非常に読みやすいのですが、同時に「建築家としての矜持」が強く感じられます。それゆえに、家を建てようとする人に求めることも割と厳しめ。
考え方は人それぞれですが、たぶん(建築設計事務所が)ハウスメーカーと一番違うのはココでしょう。設計者と建て主がいい感じの関係でなければ、やはりいい感じの家にはならないと私も思う。文中では軽やかに書かれていますが、例えば、下の引用からは著者の自信と誇り、仕事へ取り組む哲学が滲みでていると思うのです。

年齢や経歴が似ているとかもかなり重要ではあるけれど、決定的なことはあなたたちがその人と心のどこかがつながったかどうか。あなたの配偶者はデータで選んだわけでは、あるまい。「この人なら信頼できる・・・」という気持ちが持てるようなら、その設計は住み良いはずだし、おや? と思う部分が少しでもあったら絶対設計依頼しないこと。設計と、設計をする人というのが、どれだけ家の質を決めるか知っているからご忠告。

 自分がこれからしばらく身を預ける家を作ってくれる人だもの、まず徹底的に相手を調べ抜いて、その上で更に心が通うかどうか確認する。

「1 そもそも、家を建てるということ」文庫版p69より

建築に携る人が読むと、著者のように絶対的な自信を持って、建て主(施主)と対話ができるか不安になる部分もあるかもしれず、また家を建てたいと思う人が読むと「そこまで真剣に考えて取り組まなければダメですか?」と確認したくなることもあるかもしれませんね。
でも、そうやって自分を認めてくれたうえで、徹底的にこだわろうとする人の家づくりは、確かに失敗するはずがないのです。

最後に、大目次をご紹介。2章にでてくるリビング不要論、3章にでてくる坪単価をめぐる解説など面白くてためになる話が多いはず。

  • 1. そもそも、家を建てるということ
  • 2. さァ、設計。部屋を考える
  • 3. いよいよ工事
  • 4. 出来上がった家に住む
  • 5. 家を買う

【書評】施主の教養書として最適な、建築家の性格分析・相性診断本。

『建てずに死ねるか! 建築家住宅』(大島 健二 著)

著者自身がいわゆる「建築家」で、彼の視点から、
「(ハウスメーカーに頼まずに)建築家に住宅を頼むというのは、どういうことか」
をテーマに、様々な切り口で紹介を試みた本だと思います。

本書は「はじめて建築家、建築設計事務所と付き合うことになりそう」な人が一読しておく「教養書」として、オススメできます。精読する必要はありません。

発行が2002年12月20日(初版第一刷)と古いのですが、いわゆるノウハウ本ではないので(時代を感じさせる表現や世情は多々ありますが)エッセンスは今にも通じるところがほとんど。古本ならワンコインで入手できるという意味で費用対効果は高いです。

大目次は以下。施主の教養書として考えると、特に4章、7章、8章が役立ちます。

  1. これが「建築家住宅」だ!(1章)
  2. 「建築家」とは何ぞや?(2章)
  3. 「建築家住宅」の謎(3章)
  4. 「建築家」にもいろいろある(4章)
  5. 「建築家」はどこにいる?(5章)
  6. 建築雑誌の読み方(6章)
  7. 絶対に「建築家」に頼んではいけない人(7章)
  8. 建築家、その使用上の注意(8章)
  9. 「建築家住宅」に住む覚悟(9章)
  10. 「建築家住宅」の未来(10章)

血液型占いよろしく建築家の類型についてズバッと分類し、それぞれのタイプに合う施主(つまり家を建てたい人)はどんな人かという相性診断と解説、という構成です。
その内容が正しいという保証はない(著者の主観)わけですが、なんとなく正しいように感じられる点でも血液型占いに近いものがあります。

難解な文章と住宅の作品性にこだわり、あまり笑わない。(…中略…)「コンセプト」とか「私に任せてください」が口癖でたとえ住宅であっても社会に対する批評性のないものは作品ではないと考えている。(…中略…)難解な文章を書く理由は、本人は「学術論文」を書いているつもりだからだ。(…以下略)

【第4章「建築家」にもいろいろある】より

上記は「アカデミック系」として括られる建築士の説明の一部。触れたことがある人からすれば「あるある」。添えられたイラストがマオカラーを着用しているのも微笑ましい感じです。

若干内輪ネタが過ぎる感じもしないではないですが、著者自身の経験や見聞を元にした記述は率直であり、コミカルなテイストに自虐的な皮肉のスパイスが効いて楽しく読めて、それでいて、いわゆる「建築家」の輪郭をつかむことができるのではないでしょうか。
時折、建築系にありがちな理屈っぽいところや、それでいてよく読むと全然理屈になっていないところなど、自身で「建築家とは」を体現しているようで好感が持てます。